「本部から“FDD”を渡されたけど、どこをどう見ればいいの?」
▸ ロイヤリティや閉店率の数字は正直?
▸ 途中解約ペナルティはどこに書いてある?
▸ 行政処分歴があっても契約して大丈夫?
──そんな不安を抱えたままサインしてしまう前に、FDD(Franchise Disclosure Document=開示書面) の読み方をマスターしましょう。
日本のフランチャイズ契約では、中小小売商業振興法 に基づき、本部は加盟希望者へ「重要事項」をまとめた開示書面を契約前に必ず交付する義務があります。
ところが実務では “数字だらけの PDF” を渡されるだけで、どの項目がリスクに直結するか を丁寧に教えてくれる本部は多くありません。
本記事 「FDD(開示書面)とは?見るべき7項目」 では、
- 法的背景と受領タイミング ― 14 日ルールの落とし穴
- ロイヤリティ・閉店率など“要チェック7項目”の具体例
- 診断士・弁護士レビューの活用法と費用相場
をコンパクトに整理し、「数字と条項」を読み解くチェックリスト を提供します。
この記事で得られること
- 開示書面と契約書の違いを 5 分で理解
- ロイヤリティ改定履歴・訴訟情報 の探し方
- 閉店率が高い本部を見抜く 推奨指標
- 専門家レビューを依頼する際の 相場と依頼先
- 〈ダウンロード可〉見るべき 7 項目チェックリスト
FDDは“読む”のではなく“診断”するもの。
さっそく、開示書面の基本構造から確認していきましょう。
FDD(開示書面)とは?法的背景と役割
中小小売商業振興法と FTC ガイドライン
フランチャイズにおける FDD(Franchise Disclosure Document/開示書面) は、加盟希望者に対し 「契約・投資判断に不可欠な情報を事前に開示する」 ことを目的とした法定書類です。
- 日本では 中小小売商業振興法(特定連鎖化事業の届出制度) により、本部は契約締結前に重要事項を文書で交付する義務を負います。
- 米国では FTC フランチャイズ・ルール が同様の役割を担い、項目構成が世界標準になっているため、日本の大手チェーンも多くが 米国型FDDのフォーマット を採用しています。
ポイント
日本の法律には「何を何ページで書け」という詳細規定がないため、フォーマットも粒度も本部ごとにバラバラ。読み手が“見るべき項目”を把握しておかないと、リスク情報を見落とす恐れがあります。
交付義務と受領サインのタイミング
- 交付時期:契約日から 14 日以上前 が推奨ライン。説明会当日に渡されて「すぐサインを」と急かす本部には要注意です。
- 受領確認:多くの本部は「開示書面受領確認書」に署名を求めます。これはクーリングオフ期間の起算点にもなるため、受領日を必ず控えておきましょう。
- 改訂義務:ロイヤリティ改定や閉店率の大幅変動など重要情報に変更が生じた場合、本部は速やかに改訂版FDDを再交付する責任があります。
ここまでのまとめ
FDDは「数字と条項の説明責任」を果たすための公的な“説明資料”。加盟側が正しく読み解いてこそ、初めて契約書との突合が機能します。次章では、受領からサインまでの具体的なステップと“14日ルール”を守るためのスケジュール管理術を解説します。
開示書面受領から契約締結までのステップ
「FDDは受け取った—さて次は?」
ここでは、交付から契約サインまで最低 14 日 を安全に使い切るためのロードマップを示します。スケジュールを可視化しておけば、「説明不足のまま契約を急かされる」リスクを回避できます。
書類確認期間は最低14日──“クーリングオフ”の考え方
日数 | やること | チェックポイント |
---|---|---|
Day 0 | FDDを受領・受領サイン | 受領日付を必ず控える(起算点) |
Day 1–3 | ざっと通読し、赤旗項目を付箋 | ・閉店率10%超・訴訟履歴あり・ロイヤリティ改定履歴の急増 |
Day 4–6 | 本部へ一次質問メール | 回答速度=情報開示姿勢のバロメータ |
Day 7–10 | 専門家レビュー(診断士・弁護士) | 料金相場:5万〜15万円/1件 |
Day 11–13 | 二次質問 → 回答を契約書案と突合 | FDDと契約書で数字がズレていないか |
Day 14 以降 | サイン可否を最終判断 | 不安が残る場合は延期・再交付を依頼 |
クーリングオフではない
フランチャイズ契約は特定商取引法のクーリングオフ対象外。“読了期間14日”は最後のセーフティネットと心得て、質問とレビューをこの期間内に終わらせましょう。
説明会・質疑応答で潰すべき3つの盲点
盲点 | 質問例 | 目的 |
---|---|---|
① ロイヤリティ改定履歴 | 「過去5年で料率を上げた理由と今後の予定は?」 | 将来コスト上昇リスクを可視化 |
② 閉店店舗の原因分析 | 「直近で撤退した加盟店の共通要因は?」 | 潜在的な立地・運営リスクを把握 |
③ サポート実効性 | 「SV訪問時の改善提案が利益に与えたインパクトは?」 | 数字ベースで支援効果を検証 |
TIP: 質問は「はい/いいえ」で終わらない形で。
例
悪い聞き方「閉店率は高くないですか?」
良い聞き方「過去3年の閉店率と、そのうち資金ショートが原因だった割合を教えてください」
これらをクリアにできれば、FDD→契約書へ進む準備は完了。次章では、実際に“見るべき7項目チェックリスト”を使って、リスクの数字を具体的に洗い出します。
見るべき7項目チェックリスト【必携テンプレ付き】
“重要事項”という名の長文PDF――読むだけで疲れますよね。
そこで編集部は 採択率80 %オーナーが実際に使うチェックシート を参考に、7つの必須項目と 見るべき数値・条項 をまとめました。下表をそのままコピーして、紙でもExcelでも◎
項目 | 着眼ポイント | 合格ラインの目安 |
---|---|---|
会社概要・事業沿革 | 直営店数と開業年。一気にFC化していないか | 直営10店以上・FC化は創業3年以上経過後 |
加盟店数の推移と閉店率 | 3年推移と理由。撤退要因が「立地」「本部サポート」どちらか | 閉店率5 %未満/理由開示アリ |
ロイヤリティ・広告分担金 | 算定式(歩合・定額)と上限、改定履歴 | 歩合≤7 %または定額≤30万円/改定回数1回以下 |
本部の財務状況 | 直近3期PL・BSで営業利益・自己資本比率をチェック | 営業利益黒字&自己資本比率20 %超 |
契約期間・更新・途中解約条項 | 契約年数・違約金・競業避止の範囲 | 期間5年以下/違約金=加盟金の50 %以下/競業避止2年以内 |
訴訟・行政処分履歴 | 内容と和解状況を確認。継続中か終了か | 重大処分なし/訴訟は和解済み |
加盟店サポート体制 | 研修時間・SV巡回頻度・ITツール | 研修100h以上/SV月1回以上/POS・在庫アプリ標準装備 |
使い方ガイド
- 数値をFDDから抜き書きし、合格ラインと比較 → 赤字は追加質問。
- 本部説明会で赤字項目を突っ込む(メール質問可)。
- 専門家レビューでは赤字項目だけを重点チェックしてもらい、費用を圧縮。
ダウンロード:この記事の末尾に 〈7項目チェックシート.xlsx〉 を用意しています。スマホでも編集できるので、面談中に数値を打ち込めば“その場で合否”を判断できます。
次章では、開示書面と最終契約書の差異が起こるポイント を解説し、「FDDでOKでも契約書でNGになる」典型パターンを防ぎます。
開示書面とフランチャイズ契約書の違い
“開示書面(FDD)は 「説明資料」、契約書は 「法的拘束文書」――似ているようで役割も効力もまったく異なります。ここでは 「FDDで安心してサインしたら契約書で地雷を踏む」 ケースを防ぐため、両者の差分と確認手順を整理します。”
“説明資料”と“法的拘束文書”を混同しない
比較項目 | 開示書面(FDD) | フランチャイズ契約書 |
---|---|---|
目的 | 投資判断に必要な情報を開示 | 権利・義務を確定し執行可能にする |
改訂タイミング | 情報が変われば随時(※義務) | 双方の合意がない限り固定 |
法的効力 | 説明義務違反→損害賠償請求の可能性 | 契約不履行→違約金・強制執行 |
署名の有無 | 受領サインのみ(確認用) | 署名・捺印で効力発生 |
典型的な差異 | ロイヤリティ率「上限5%」と記載 | 契約書では「状況により改定可」の条項 |
ポイント
- FDD=“パンフレット”に近いため、法的には「重要事項説明義務」の履行を示すだけ。
- 契約書が最終ルール。相違がある場合は契約書が優先されます。
契約書で数字が変わるケースと対処法
変わりがちな条項 | よくある記載例 | 対処法 |
---|---|---|
ロイヤリティ条項 | FDD:5%契約書:5%+本部が必要と認めた場合10%まで改定可 | 「上限○%」「改定には加盟店協議会承認」等の文言を追加要求 |
解除・違約金 | FDD:途中解約金=加盟金50%契約書:+営業補償金3か月分 | 営業補償金条項の削除or上限額明示 |
競業避止義務 | FDD:2年契約書:期間無期限 or エリア全国 | 期間・エリアを具体的に限定(例:2年・半径3km) |
追加費用 | FDD:ロイヤリティ+広告費のみ契約書:システム更新料・研修更新料を別途請求可 | 年額・上限を明記、もしくは総額包括型へ修正 |
実践TIP
- Word+赤入れ機能で両文書を画面分割しながら差分チェック。
- 差分が見つかったら「追記理由」「改定上限」を本部へメール質問 → 書面回答を保存。
- 専門家レビューは“差分リスト”を添えて依頼するとコストと時間を圧縮できます。
ここまでで
- 「数字はFDD通りか?」
- 「契約書の文言は具体的か?」
を精査できれば、あと一歩で“後悔ゼロの契約”に近づきます。次章では 専門家レビューの活用法と費用相場 を解説し、最終チェック体制を整えましょう。
専門家レビューのすすめと費用相場
“条文の細かい日本語や財務数字はプロに任せたい」――それは正しい判断です。
加盟金が数百万円‐数千万円の投資になる以上、5万〜15万円のレビュー費用は“保険料” と割り切りましょう。ここでは 依頼先の選び方・料金テーブル・活用フロー を整理します。”
観点 | 中小企業診断士(経営コンサル型) | 弁護士(リーガルチェック型) |
---|---|---|
得意分野 | 損益モデル・事業計画・KPI妥当性 | 契約条項・違約金・競業避止義務 |
レビュー資料 | FDD+事業計画書+収支シミュレーション | FDD+契約書+個別覚書 |
主なアウトプット | ・損益シナリオ・原価/ロイヤリティ感度分析 | ・条項ごとのリスク評価・修正文案 |
費用感 | 5万〜10万円/1件 | 8万〜15万円/1件 |
おすすめケース | 「数字が現実的かプロ視点で見てほしい」 | 「違約金や競業避止が適正か確認したい」 |
“ハイブリッド戦略: まず診断士で“数字”を固め、条項リスクが大きい場合に限り弁護士追加レビュー――二段階方式 ならコストを抑えつつ精度も確保できます。”
成功報酬/着手金の料金帯と選び方
料金形態 | 相場 | メリット | 注意点 |
---|---|---|---|
着手金+成果物納品 | 着手5万+納品後残金 | 事前に総額が読める | リスク箇所が多いほど追加料金 |
成功報酬(採択型) | 採択後ロイヤリティ×〇% | 不採択・契約見送りで支払ゼロ | 成功報酬率が高め(15〜20%) |
月額顧問(多案件) | 3万〜5万円/月 | 2号店以降・複数業態でも割安 | 契約期間の縛りが6か月程度 |
選び方のコツ選び方のコツ
- 比較見積は3社 取り、レビュー項目・納期・修正回数を明確化。
- フランチャイズ案件のレビュー実績10件以上 を目安に。業界特有の条項(競業避止・商標使用)に精通しているかが肝。
- オンライン面談で“質問→即答”のスピードをチェック。対応力=実務経験値と考えてよい。
まとめ
- 診断士=数字の妥当性、弁護士=条項リスク と役割を分けるとコスパ最適。
- レビュー費用は 投資総額の1〜2% が目安。「数百万円の損失回避」につながるなら安い保険です。
- 依頼前に FDD/契約書のPDF+7項目チェックシート を共有し、指摘箇所を“赤ペン”で返してもらうと、後工程(本部交渉)がスムーズになります
次章では 「ロイヤリティ無料なら安心」は誤解? など、受領後に混同しやすいポイントを FAQ 形式 で整理します
よくある誤解・FAQ
「ロイヤリティ無料なら安心」は本当か?
誤解です。 ロイヤリティを「無料」や「0 円」と謳う本部でも、代わりに──
- 原材料マージン(食材を本部から高値で仕入れる)
- システム使用料・販促費(固定で月数万円)
- 広告協賛金の臨時徴収
が設定されているケースが少なくありません。支払先が“ロイヤリティ”という勘定科目ではないだけと理解し、FDDで“その他費用”欄を必ず確認しましょう。
FDD なしで契約してしまったら取り消せる?
- 法律上は取り消し・無効を主張できる余地がありますが、実務では時間と弁護士費用がかさみます。
- 未交付が判明した時点で 「開示書面交付→14 日間の確認期間を設定」 するよう書面で本部に要求するのが最短・低コストの解決策です。
FDD に書かれていない費用があとで請求されることは?
あり得ます。特に―
隠れコスト例 | チェック方法 |
---|---|
POSレジ保守料・アプリ更新料 | 契約書の「その他本部が必要と認めた費用」を検索 |
臨店指導料・再研修料 | FDD の“加盟店指導項目”に金額欄があるか確認 |
本部システム大型アップデート | 「改訂時は加盟店負担」の文言を削除交渉 |
「閉店率が高い=危険」という判断で良い?
原則 YES ですが、業態転換(唐揚げ→餃子など) による計画的リブランドを閉店として計上している場合もあります。
対策:閉店理由を「立地不採算/オーナー事情/業態転換」の3分類で質問し、“不採算による閉店率” を抽出する。
加盟後にロイヤリティ率を上げられたら拒否できる?
契約書に「協議のうえ改定可」と明記されている場合、加盟店協議会の議決や一定期間の周知が必要、という条件付きが一般的です。
拒否権が欲しいなら、契約交渉段階で 「ロイヤリティ率の上限」「改定には加盟店の過半数同意」を条項に盛り込みましょう。
これらの“ありがち誤解”は、前章の専門家レビューで早期発見できます。
疑問が残る箇所は、7 項目チェックシートにメモしておき、本部説明会でクリアにしてから契約書へ進むことを強くおすすめします。
まとめ|“数字と条項”を読み切って後悔ゼロの契約へ
いかがでしたでしょうか?
本記事では FDD(開示書面)の法的位置づけから、14 日間で行う精読フロー、見るべき7項目、契約書との差分、専門家レビューの活用法、そしてよくある誤解 まで一気に整理しました。これで 「サインしてから知る」 という最悪の事態は避けられるはずです。
押さえたポイント | 次にすべき行動 |
---|---|
受領日から14日をフル活用 | チェックリストをダウンロード→赤旗項目をマーク |
7項目で“赤字か黒字か”を判断 | 本部説明会で赤字項目を深掘り質問 |
契約書とFDDの差分を必ず突合 | 差分リストを専門家へ送りレビュー依頼 |
ロイヤリティ無料=ノーリスクではない | “その他費用”の条文まで検索し上限を確認 |
もっと深掘りしたい場合は—
- ロイヤリティ試算と資金繰り表 →〈資金計画クラスター〉
- ブランド別のリアル数字 →〈業態・ブランド別レビュークラスター〉
- 契約後トラブルの事例と対策 →〈成功/失敗ケースクラスター〉
契約はゴールではなくスタート。
FDDを“読み切る力”こそが、開業後に数字をコントロールする経営者マインドの第一歩です。
さっそく 〈7項目チェックシート.xlsx〉をダウンロードし、手元の開示書面に数字を書き込みながら――「この本部で本当に戦えるか?」 を冷静にジャッジしてみてください。
不明点は専門家と本部に投げ、クリアになったら次に進む。
その積み重ねが、後悔ゼロでスタートラインに立つ最短ルートです。
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